2007-10-16

社会 「今後の日本の水産業について考える」

ハムゼが日本の研修を通して、UNRWAの教育に導入したいと考えているのがシンキング・ツールです。今UNRWAでは、高次思考力育成に焦点をあてた様々な活動が行われていますが、なかなかうまくいっていないのが現状です。その要因は、実に様々なのですが、その一つに「具体的にどういう活動をすべきかが分からないから」といういことがあげられます。

そこで、シンキング・ツールを紹介したいということにいたりました。

シンキング・ツール自体は、単なるツールなので、これを使えば、思考力が育成されるわけでは、決してありません。授業をする中で、その一場面に利用できるだけで、それ自体には意味があるわけではありません。そのため、UNRWAでシンキング・ツールを紹介するためには、レッスンプランと一緒に提示する必要があるわけです。

ところが、ハムゼ自身も、どう利用するかという明確なイメージを持てていませんでした。今回は、三宅学級の社会の授業でシンキング・ツールを使った取り組みを観ることができ、だいぶクリアなイメージとどう授業を設計していけばいいのかについてアイデアを持てたようです。

【授業の流れ】
1.目当ての確認
  到達度の確認
2.問題点をワークシートに整理する(個人学習)
3.問題点について全体で共有する(全体学習)
4.解決策について整理する
5.自分の考えをワークシートにまとめる
6.次の時間の学習を確認する

【子どもたちへの支援】(授業の流れに沿って・・・対応はここではさせていません)
・ ワークシートの提示
・ 何ができたらこの時間は考えたことになるのかんついて共通理解を図る
・ 教科書、ノート、発券カード、資料集を参考にしながら、整理するように助言する。
・ 机間巡視をして、整理できない子どもに対しては助言する。
・ 動画クリップやホームページなどを見せながら理解を促す
・ 意見を発表させ、猟師の様々な努力や工夫を理解する。
・ まとめる際、根拠を上げて自分の考えを述べるように助言する
・ まとめたら、今日の学習の振り返りをするように伝える
・ 食糧生産全体について考えることを伝える

【着目した点】
・ 問題点をワークシートに整理する際に、何人かの児童にどういう問題点があるか発表をさせて、ワークシート(Thinking tool)に具体的に何を書くべきか、どういう作業をすべきかを示していた。初めて使うシートだと、どう利用すればいいか分からないということもあるので、このように”具体的な例”を出しながら、クラス全体で共通理解をもたせることは重要だと思いました。

・ 個人活動とグループ活動の組み合わせ方が非常に絶妙でした。全員がしっかり自分の意見や考えを出してから共有することで、すべての生徒が学習に参加することを可能にしていました。個人作業に十分な時間をとることで、しっかり自分の考えを吟味することが可能であるし、支援が必要な児童に関しては、個別に教師が対応し、必ず全員が課題に取り組めるような授業デザインがされていました。

・ 個人作業をしている際の教師の支援
1)個別の指導:児童一人ひとりの学習活動を机間巡視しながら確認していた。
2)個別学習が進まない子への支援
     どの資料をみればいいのかヒントを与える
     資料の見方のアドバイスをする(図表の見方など)
     資料に出てくる日本語(難しい言葉など)を分かりやすく説明し、理解を促す
3)まとめかた
     資料をコピーするのではなく、自分の言葉でまとめるように指導
4)ワークシートの使い方の説明
     何を書けばいいか分からない児童がいれば、その指導を行っていた
     ※シンキング・ツールは、初めて利用する児童にとっては、理解しづらいところがある
5)動機付け
     褒めたり、がんばれ、と声をかけながら児童一人ひとりが意欲的に取り組めるように促していた。

・ 個人活動で出てきた意見を全員で共有する際、単に発言させるだけではなく、後でひとつずつ吟味するために、パソコンに直接出てきた意見を書き、それをプロジェクターに投影していました。それにより、児童は”視覚的”に他者の意見を確認できたと思います。シンキング・ツールは、学習者個々の思考を扱うため出てくる考えや情報は多種多様です。その考えや情報を、”出すだけ出してだしっぱなし”にするのではなく、しっかり理解につなげたり、間違いや誤概念を修正していく作業が必要になります。そこが課題の一つです。

実際、以前見学させてもらったある学校のシンキングツールを使った実践授業で、児童からでてきた意見全部を扱うことができず、とても中途半端に授業が終了していたことがあった(誤概念を修正するることができていなかった)。多様な考えや情報をどう”料理する”か、どう授業に活用するのか、その部分は教師のデザインが求められるところで、一番難しいところだと思いました。

・ 発問とシンキング・ツール
三宅先生は、個々から出た意見に対して、少しでも不明確なもの、曖昧なものがあると、Why, How, What, When, Whereなど様々な疑問詞を使って発問を繰り返していました。たとえば、「その意見はどこに(情報が)載っていたのか」「本当にそれ(魚が取れる時期が違う)は問題点なの?なぜそう思うの?」などです。解釈が入った意見の場合、その根拠になるデータや資料を提示することを求め、誤概念があると”そうしてそう思ったのか”というところを追求し、全員でその課題に取り組んでいました。

・ 子ども同士のインタラクション
知識構築のプロセスを見ることができました。上記の”発問とシンキング・ツール”に記したことに関連しているのですが、何か不明な点、曖昧なところがあると「なぜそう思うのか。」「本当にそうなのか。」という問いを追求し、その答えを、発言した児童だけでなく、全体に向けて問いかけていました。それにより、みんながその問いに答えるために協力し、様々な視点から意見をだしていました。たとえば、

児童A:「輸入が増えていること(が問題です)」
教師:「なんで、輸入が増えることが問題になるの?」
児童A:「借金が増える・・・」
児童B:「A君の意見の追加になるけど、借金が増えるし、・・・・・・(自分の意見をいう)」
児童C:「それに、安全確保も問題になると思う」
児童D:「安全って言えば、こういうこともあるし・・・(説明を続ける)
教師:「はぁ、なるほどね。そうしたら、これも問題っていうことでいいのかな?(他の児童に合意するかどうかを問いかける)」
児童:うなづいたり、反応がある。
教師:「そうしたら、問題っていえるね」
 ※・・・・の部分は、同時通訳をしていたため、聞き逃してしまった部分

このプロセスをみると、いかに共同で知識を構築しているかを確認することができました。

・ 解決策について考える際、児童の手元にある情報だけでなく、WEB上の情報などを提示しながら、ミクロな視点とマクロな視点の両方から問題と解決策を考えさせていました。その中で「・・・ってことは、AとBは関連してるんやね」といったように、バラバラの情報をつなげて、マクロな視点で問題や解決策を考えさせるような場面も見られました。ハムゼが以前”どのようにHow to learn"を学ばせるのか、という点について興味を示していましたが、こういう教師の足場づくりを活かして児童がHow to learnを学んでいるのではないかと思いました。

【ハムゼから三宅先生への質問】
1) 個人作業で三宅先生が机間巡視をしながらメモをとっていたけれど、それは何か。
2) Thinking toolを使う前に、その使い方を説明しているのか。もししているなら、どのように説明しているのか。大人でも理解しにくいところがあるのを、児童に分かってもらうのは困難であるのに、どうして児童は難なくThinking toolを使うことができているのか。
3)短い時間で調べたことや意見を書かせるのは非常に難しい。どのようにしたら、45分という短時間で自分の意見を書かせたりできるのか。授業設計や指導の視点から意見を聞きたい。
4)すべての生徒がちゃんと作業をしているのかをどのように確認するのか。やらない子はやらないと思うのだけれど、それをどのように確認しているのか。
5)Thinking toolを使った後、そのシートはどのように保管されるのか。子どもが保管するのか、それとも教師が保管しておくのか。
6)自由に意見をさせると、事前に予想できないような考えや情報がでてくることがあると思うが、でてくる意見や情報をどのようにコントロールするのか。あまり関係のない情報や意見をどのように扱うのか。
7)誤概念や間違った解釈をどのように修正するのか。
8)多すぎる情報(いろんな情報がでてくるので)から、学習のポイントやしっかり身に着けておくべき知識をどうおさえるのか、まとめるのか。
9)シンキング・ツールを使ってみて、どういう点が難しいのか。どういうところに注意しなければいけないのか、三宅先生の経験から意見を聞きたい。

実際に、Thinking toolを利用している授業をみて、かなりイメージがわいたようです。

2 comments:

unrwa syria ict education project said...

【久保田】

「具体的に何を書くべきかを指示」とありますが、どのようにインストラクションをするかが重要になります。教師の発言も記録するとよいでしょう。

unrwa syria ict education project said...
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