2007-09-23

ディスカッション

夜10時から11時半の1時間半、ハムゼと二人でディスカッションをした。
この4年間UNRWAで教員研修などをしてきて、いつも直面していた問題。
それは、”UNRWAの教師は、自分たちの実践も、人の実践も評価することができない”ということだ。
評価をするのは、スーパーバイザーだけ。つまり、自分たち自身が自らの実践や他者の実践を”評価をする”ことをしてこなかった。評価の仕方が分からないのだ。

たとえば、ワークショップの際、いつも問題視していたのは、自己評価シートやワークショップの評価をしても"It was great!", "It was very useful for us", "We learnt many things from the workshop", "His lesson is excellent" などである。つまり、なぜ、そうなのか、ということを自分たちで解釈できない。

私たちは、小学校のころから美術や体育、音楽など情操教育の中で、もちろん、主要科目の中でも(特に国語など)「あの人の絵は、色使いがいいなぁ。」「あの人の作文は論理的で分かりやすいなぁ」、「なぜ、自分のプレゼンテーションは他の人に伝わらないのだろう」という他者と相互に作用しながら自分を振り返る。ところが、UNRWAの学校ではその部分が完全にかけているため、LCAといいながらも、子どもたち同士で活動させっぱないし、それを評価する方法、次の課題を見つけるということをさせていない。そのため、形だけのLCAだけで終わってしまっている。

だから、ハムゼも学校見学にいっても、「これがよかった」「S先生の考えはすばらしい」「三箇牧小学校からたくさんのことを学んだ」とはいうものの、それがどういう意味を持つのか、なぜ、それがいいのかまでは、解釈できていない。形だけしかみていないのだ。そこには、クリティカルに自分のことを振り返り、それを土台にどのようにそれを解決していくかという創造的な思考にまでいたっていない。

たとえば、ハムゼは、「教師同士のコラボレーションが日本で一番学んだことだし、これがUNRWAでできればすべての問題が解決できる」といっていたが、そう単純なものではない。日本の先生のコラボレーションや高いモチベーションは、文化的なもの。小学校から、学校という学びの共同体で学習しているため、コラボレーションができるが、そういう文化がないシリアでそれをどう実践にもっていけるのか、また教師のモチベーションに関しても、教職や教員になりたい人を支援するシステムがなく、単に教科の専門家が先生になるシリアでは、なかなか難しいこと。こういう社会的・文化的背景を考慮して、どのように教員のコラボレーションを作っていくのかをハムゼでデザインしてもらいたいと思う。そういう目的があったほうが、問題意識や目的意識をもって学校見学ができると思う。

学校見学から学んだことをディスカッションして、理解を深めてもらうと思っていたけれど、理解を深めるだけではだめだということを今回自分の反省点として学んだ。つまり、学んだことから新しいものを創造(Create)することが重要なのだ。私は、今回まで”理解”に焦点を当てすぎていた。明後日から慶應での研修が始まるのでそこではハムゼにとって、創造的な学習活動ができるようにデザインしたいと思う。

ではどうしたらいいのか。そこでヒントになったのが、シンポジウムでの鈴木先生と吉崎先生の言葉だった。

「すぐれた実践が何故優れているのか解釈しないと、次(他者)に伝えられない。その解釈を支援するのが研究者の役割である(鈴木先生)」だと。また、吉崎先生は「教師が気づかなかったことを、研究者によってリフレクションできることが大切だ」といっていた。

なるほどと思った。目的思考とその目的と達成するための方法が抜けていたのだ。ハムゼが今後、UNRWAの教育実践をよくしてくためには、単に、「日本でこんなことを見てきました。」「こういうところがよかったです」と理解したことを紹介するだけではなく、だからこそどうすべきか、という提案までしていなければならない。提案するためには多くのステップがあり、
①新しい情報や考え、視点を得る
②自分たちの教育や実践の問題点を振り返る
③問題点を明らかにする
④問題点を解決するための提案を考える

そして、「提案」のためには、また更なるステップが必要になる。
①ある理論に基づいて、事例を研究し、モデルを作ったり、学習環境をデザインしたりする。
②実際にそのモデルやデザインが妥当であるか、有効であるかを調査する。
③妥当である、有効であるとみなした場合、それを提案し、普及に取り組む。

もちろん、「普及」させるのは簡単なことではない。それにも多くのステップが必要になる。
普及についてはロジャーズの普及学を参考にすればいいと思うけれど、どちらにしろ、それぞれの地域の特色や、文化的・社会的文脈があるので、自分が提案したモデルやデザインを修正しながら、より精密されたものにしていく必要がある。

こう考えると非常に研究の流れに似ていると思った。そこで、今後の方向性として、UNRWAの状況を考慮してどのように日本で学んだことをUNRWAでの教員研修に行かせるか、ということを考えていくため、研究のステップをとりたいと思う。何を目的として、どのような理論をつかって、ワークショップや実践をデザインし、どのようは手法でそれを評価するのか、ということを考えてもらう。そして、シリアに帰ってからも、その方法で調査を行い、分析できるような力をみにつけると、以上のような問題を解決することができるかもしれない。

この件については、久保田先生とじっくり話をして決めたいと思う。

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